「帰国が決まったけれど、香港で加入した保険や銀行口座はどうすればいい?」「国外財産調書って何を書けばいいの?」——永住帰国を控える香港在住の日本人駐在員とそのご家族から、このようなご相談を110 Financial Supportでは頻繁にお受けしています。
帰国後の生活に目が向きがちですが、海外資産の整理を後回しにすると、税務申告の漏れや相続時のトラブルにつながる可能性があります。特に、香港で加入した貯蓄型保険や年金保険、銀行口座の扱いは、帰国後も継続保有できるものと解約が必要なものが混在しており、事前の整理が不可欠です。
本ガイドでは、永住帰国を控える方が押さえるべき海外資産整理の論点を時系列で整理し、海外保険・相続対策・税務手続きの3つの柱から、帰国前後に困らない実務的なステップを解説します。
海外に1年以上滞在している日本人は、日本の所得税法上「非居住者」に分類されます。この身分は、日本に住民票を戻し居住の意思を示した時点で「居住者」に変更されます。これは単なる身分変更ではなく、課税対象となる所得の範囲が大きく拡大する転換点です。
非居住者の間は、日本国内の源泉所得(不動産所得や利子など)のみが課税対象でした。しかし居住者に戻った瞬間から、全世界の所得が日本の課税対象となります。香港での給与所得、投資利益、保険の解約返戻金など、あらゆる所得が対象になることを意味します。
この税制転換を理解せずに帰国すると、予期しない税負担や申告漏れによるペナルティが発生する可能性があります。帰国前に資産の全体像を把握し、継続・解約・移転の判断を済ませておくことが鉄則です。
永住帰国に向けた資産整理は、帰国予定日の6ヶ月前から計画的に進めることをおすすめします。以下のタイムラインに沿って、一つずつ確認していきましょう。
まずは、香港および海外に保有するすべての資産をリストアップします。以下の項目を参考に、スプレッドシートで「海外資産管理シート」を作成してください。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 資産の種類 | 普通預金、定期預金、株式、投資信託、不動産、生命保険、年金保険など |
| 金融機関名・所在地 | HSBC、Hang Seng Bank、AIA、Sun Life など |
| 通貨 | HKD、USD、RMB など |
| 現在の評価額(現地通貨) | 作成日時点の残高・解約返戻金 |
| 現在の評価額(日本円換算) | 同上(作成日のレートで換算) |
| 流動性 | 即時引出可、定期ロック中、解約ペナルティあり など |
| 帰国後の扱い | 継続保有、日本へ送金、売却・解約 など |
この棚卸しを行うことで、12月31日時点の国外財産合計額が5,000万円を超えるかどうかの目安がつきます。5,000万円を超える場合、翌年6月30日までに国外財産調書を税務署に提出する義務が生じます。
香港で加入した保険は、帰国後も継続保有できるものと、解約または住所変更が必要なものに分かれます。110 Financial Supportでの相談では、貯蓄型保険を帰国後も継続保有するケースが最も多いです。理由は「帰国後も保有を継続できる商品がある」「ドル建てで円安ヘッジになる」「解約返戻金が元本を上回るまで継続したい」の3点です。
保険の継続・解約を判断する際の基準は以下の通りです。
判断に迷う場合は、保険会社または代理店に「帰国後の契約継続可否」と「住所変更手続きの要否」を必ず確認してください。110 Financial Supportでは、帰国後も継続してサポートを受けられる体制を整えています。
香港の銀行口座は、帰国後も維持できるケースが多いですが、口座維持手数料や最低残高要件に注意が必要です。主要銀行の帰国後対応は以下の通りです。
| 銀行 | 帰国後の口座維持 | 注意点 |
|---|---|---|
| HSBC | 可能 | Premierは最低残高100万HKD、口座維持手数料に注意 |
| Hang Seng Bank | 可能 | 住所変更手続きが必要、一部サービス制限あり |
| Citibank | 可能 | グローバルサービスで日本口座と連携可 |
帰国後に利用予定のない口座は、解約して日本へ送金することをおすすめします。送金の際は、為替レートの変動リスクを分散するため、一度に全額を送金するのではなく、複数回に分けて送金する「時間分散」が有効です。
帰国後の確定申告や国外財産調書の作成に備え、以下の書類を準備しておきましょう。
これらの書類は、帰国後に再取得するのが困難な場合があります。帰国前に必ず入手し、日本語での説明メモを添えて保管しておくことが鉄則です。
帰国後は、日本の居住者として税務申告を行う義務が生じます。以下の手続きを漏れなく実施してください。
海外赴任時に「納税管理人」を選任していた場合、帰国後は「納税管理人の解任届出書」を税務署に提出する必要があります。この届出書は、帰国後に納税地を所轄する税務署長宛てに提出します。解任届を提出しないまま放置すると、納税管理人が存在したままの状態が続き、後々の税務申告に支障をきたす可能性があります。
帰国した年は、帰国前の海外勤務期間と帰国後の日本での勤務期間の両方の所得について、確定申告が必要になるケースが多くあります。特に以下に該当する場合は、翌年2月16日から3月15日の間に確定申告を行ってください。
二重課税を避けるため、香港で納税済みの所得については「外国税額控除」を適用できます。ただし、香港は所得税率が低いため、日本との差額分は日本で追加納税が必要になる場合があります。
12月31日時点で国外に保有する財産の合計額が5,000万円を超える場合、翌年6月30日までに国外財産調書を税務署に提出する義務があります(国税庁タックスアンサーNo.7456)。
国外財産調書に記載すべき資産は以下の通りです。
提出を怠った場合、過少申告加算税が5%加重される可能性があります。また、故意に提出しなかった場合は1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があるため、該当する方は必ず提出してください。
帰国後に見落とされがちなのが、海外保険の相続税上の取り扱いです。非居住者である間は、海外で保有する資産は日本の相続税の対象外でした。しかし、帰国して居住者に戻った瞬間から、その海外資産も日本の相続税の対象になります。
香港で加入した生命保険は、被保険者が死亡した場合、死亡保険金が相続税の課税対象となります。ただし、日本の生命保険と同様に「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が適用される場合があります。
一方、解約返戻金のある貯蓄型保険は、契約者が死亡した時点での解約返戻金相当額が相続財産として評価されます。香港の保険は解約返戻金が高額になるケースが多いため、相続税対策として以下の方法を検討することをおすすめします。
海外資産の相続では、「プロベート(Probate)」と呼ばれる裁判所を通じた検認手続きが必要になる場合があります。プロベートは、時間も費用もかかる手続きで、完了まで1〜2年かかることも珍しくありません。
香港の保険については、受取人が明確に指定されていれば、プロベートを経ずに保険金を受け取れるケースが多いです。帰国前に、保険証券の受取人指定が正しく設定されているか確認しておくことが不可欠です。
海外での資産運用は、居住国の制度や税務、帰国後の設計まで含めて考える必要があります。帰国後も効率的に資産を管理するために、以下のポイントを押さえておきましょう。
帰国して日本の居住者になると、非居住者の間は利用できなかった新NISAやiDeCoが利用可能になります。これらは日本が提供する強力な税制優遇制度であり、帰国後の資産形成の核として活用することをおすすめします。
| 項目 | 新NISA | iDeCo |
|---|---|---|
| 年間投資上限 | 360万円(つみたて120万円+成長240万円) | 14.4万円〜81.6万円(職業により異なる) |
| 非課税期間 | 無期限 | 60歳まで(受取時に課税) |
| メリット | 運用益が非課税、いつでも引出可 | 掛金が全額所得控除 |
| 注意点 | 元本保証なし | 60歳まで原則引出不可 |
香港で加入した貯蓄型保険を継続しつつ、新NISAで積立投資を行う「二軸運用」は、通貨分散と税制優遇の両方のメリットを享受できる戦略です。
香港ドルや米ドルで保有している資産を日本円に換えるタイミングは、多くの方が悩むポイントです。為替レートの未来を正確に予測することは不可能なため、「時間分散」の考え方が有効です。
例えば、10万米ドルを保有している場合、一度に全額を円転するのではなく、「毎月1万ドルずつ、10ヶ月に分けて円転する」といった方法をおすすめします。これにより、円転するレートが平準化され、高値掴みのリスクを軽減できます。
また、全ての外貨を円転する必要はありません。今後の海外旅行や子供の留学資金、あるいは資産の分散先として、一部を外貨のまま保有し続けることも有効な選択肢です。
はい、維持できる場合が多いです。ただし、口座維持手数料や最低残高要件が変更になる場合があります。帰国前に銀行に確認し、住所変更手続きを完了させてください。利用予定のない口座は、管理の手間を考慮して解約することも選択肢です。
海外に保有するすべての財産が対象です。銀行預金、株式、投資信託、不動産、生命保険の解約返戻金相当額、暗号資産などが含まれます。12月31日時点の時価で評価し、円換算して合計額を算出します。
はい、帰国して日本の居住者になった後は、海外保険の死亡保険金も日本の相続税の対象となります。ただし、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が適用される場合があります。詳細は税理士にご確認ください。
香港の銀行口座を維持していれば、口座引落しで継続できます。香港口座を解約する場合は、クレジットカード払いに変更できる商品もあります。支払方法の変更は、帰国前に保険会社または代理店に確認することをおすすめします。
基本的な確定申告は自分でも可能です。ただし、外国税額控除の計算や国外財産調書の作成は複雑なため、海外資産の金額が大きい場合や複数国に資産がある場合は、国際税務に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
帰国前に確認すべき項目を最終チェックリストとしてまとめました。
| 時期 | 項目 | 完了 |
|---|---|---|
| 6ヶ月前 | 海外資産の棚卸し・リスト作成 | □ |
| 6ヶ月前 | 国外財産調書の提出要否を確認 | □ |
| 4ヶ月前 | 保険の継続・解約判断 | □ |
| 4ヶ月前 | 保険会社に住所変更手続きを確認 | □ |
| 3ヶ月前 | 銀行口座の整理・送金計画 | □ |
| 3ヶ月前 | 不要な口座の解約手続き | □ |
| 1ヶ月前 | 税務関連書類の収集 | □ |
| 1ヶ月前 | 残高証明書・保険証券のコピー取得 | □ |
| 帰国後 | 住民票の転入届 | □ |
| 帰国後 | 納税管理人の解任届出書提出 | □ |
| 翌年2-3月 | 確定申告の実施 | □ |
| 翌年6月末 | 国外財産調書の提出(該当者のみ) | □ |
永住帰国に向けた資産整理の要点は次の通りです。
まずは、保有している海外資産のリストを書き出すことから始めてください。
判断に迷う場合は、110 Financial Supportにご相談ください。香港・日本両国の保険事情に精通したファイナンシャルプランナーが、帰国前後の資産整理と継続サポートについて、無料でご相談をお受けしています。
※本記事の内容は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘を目的とするものではありません。投資の最終判断はご自身の責任において行ってください。税務に関する詳細は、税理士等の専門家にご相談ください。
※税制は2026年8月時点の情報であり、変更される可能性があります。最新情報は各国の税務当局公式サイトをご確認ください。